1. リニアホールICで行う位置検知のメリット

磁束密度の強弱をアナログ電圧に変換

リニアホールIC 出力電圧-磁束密度

リニアホールICは磁石の磁束密度を検出し、そのレベルに応じたアナログ電圧を出力するICです。稼働部分に配置された磁石の磁束密度を検出することで、磁石のわずかな動きも捉えることができます。
また、使用する磁石タイプ (形状、磁力の向きが水平方向、垂直方向などの着磁パターン) により、リニアな位置や回転位置の検知などのさまざまな用途に活用できます。

本ページでは、エイブリックの1軸リニアホールIC S-5611Aシリーズで実現する位置センシングについてご紹介します。
S-5611Aシリーズは、高速応答性と低ノイズ性能を大きな特長とし、出力電圧のGainもプログラミング可能です。これにより、より正確なセンシングが実現できるICです。

電流センサと位置検知センサの使い分け可能

リニアホールICは、電流センサと位置検知センサの使い分けができます。

電流センサとして使う場合

ソフトフェライトコアを使って線材に発生する磁束密度を検出し、それに相当するアナログ電圧を出力します。これを電流量として計測します。

磁気比例式コア有電流センサ

位置検知センサとして使う場合

稼働部分に磁石を使用し、磁束密度の状態を検出します。電流センサとして使う場合と同様に磁束密度の強弱を計測し、アナログ電圧として出力します。

位置検知では磁石のタイプを選択することで、微妙な磁束密度の変化に対応した制御が可能です。磁石の磁力の方向は着磁方向と呼ばれ、水平方向タイプと垂直方向タイプがあります。この着磁方向と機構的な構造を最適化することで、リニアな位置や回転位置の検知など、さまざまなアプリケーションでの応用が可能となります。

リニアホールIC 高速応答

特に絶対角センサなどのDSP (Digital Signal Processor) 処理を行うICを使っている場合と比較すると、S-5611Aはアナログ信号処理であるため、検出スピードが圧倒的に速いことがメリットとなります。業界最速クラス*1の高速応答 (1.25μs*2) が、検出遅延時間低減に大きく貢献します。

また、DSP処理を行うセンサは高価なケースが多いことから、S-5611Aを使用することでコストダウンにも貢献できます。

*1 当社調べ、*2 周波数帯域 400kHzでの値

DSPなどのデジタル演算処理機能を搭載した絶対角センサとの応答時間比較
IC分類 リニアホールセンサIC
(S-5611A、エイブリック)
絶対角センサ
(A社)
絶対角センサ
(B社)
検出遅延時間相当 (typ.) 1.25μs 100μs
(Propagation delay)
290μs
(Refresh rate)

2. 位置検知 (回転検知 / スライド検知) に適した磁石

回転検知に適した磁石

回転検知に適した磁石は、円形磁石で、中心からS極とN極が振り分けられて着磁されているタイプです。
磁石が一回転すると、リニアホールICで検出される磁束密度はサインカーブを描きます。この出力波形のうち、出力電圧のセンタを中心とした直線性の高い部分を利用します。センタ電圧 (デフォルトは2.5V) を中心に、S極はプラス、N極はマイナスのリニアな電圧 (アナログ電圧) がリニアホールICから出力されます。

120°以内の角度範囲であれば、リニアホールICを高価な絶対角センサや回転角センサの代替として利用でき、システム全体のコストダウンに貢献できます。

リニアホールIC 回転検知 磁束密度イメージ

磁石から受けた磁束密度 vs 出力電圧

下図は、リニアホールIC (S-5611A) が受ける磁束密度とそれに対する出力電圧の関係です。実線はリニアホールICが受ける磁束密度、破線はリニアホールICの出力電圧を示しています。

リニアホールICの出力電圧は、2.5Vを基準電圧として変化する設定*になっています (2.5V±2.5V)。
この例では、最大約26mTの磁束密度を受けた際、リニアホールICは約4.8Vを出力しており、Gain設定は90mV/mTです。これはICにかかる磁束密度が1mT変化する (増える / 減る) ごとに出力電圧が90mVの変化する設定を意味します。

*基準電圧は変更可能です。

リニアホールICが受ける磁束密度と出力電圧波形

スライド検知に適した磁石

スライド検知では水平方向、垂直方向のどちらの着磁タイプの磁石も使うことができます。
磁石が近づくとICの出力電圧が上がり (磁束密度が高くなり)、離れると下がります (磁束密度が低くなります)。着磁方向や磁石の大きさを変えることでさまざまな動きに対応できるようになります。

下図はスライド検知の出力波形イメージです。出力波形のうち、出力電圧のセンタを中心とした破線エリアを使用することで直線性をもったセンシングが可能になります。また磁石の横幅を変更することで、磁束密度の特性を急峻にしたり、なだらかにしたりすることが可能となります。

リニアホールIC スライド検知 磁束密度イメージ

平行移動検知、垂直移動検知 磁束密度イメージ

リニアホールIC スライド検知 磁束密度イメージ2 リニアホールIC スライド検知 磁束密度イメージ3

3. 非接触で位置検知することのメリット

メカニカルボリュームやペダルなどの設計不安を解消

接触不良の心配なし

リニアホールIC 非接触検知のメリット

メカニカルボリューム(接触型の音量調整部品)の抵抗体は、経年劣化などにより動作が不安定になることがあります。これに対し、リニアホールICは非接触で検出するため、接触不良とは無縁です。これが、非接触検出の大きなメリットです。

過酷な環境下でも安定動作

リニアホールIC 過酷な環境下でも安定動作

リニアホールICは非接触で検出するため、埃・砂・水がかかる過酷な環境下でも、磁石やICをモールディングやコーティングすることで安定した検出が可能です。これにより、回転量やスライド量が正常に検出されないといった心配はありません。また、複数のホールスイッチを1つのリニアホールICで代替するといった応用も可能です。

4. こんな使い方もできます - 回転 / スライド量検知アプリケーション例

多接点スイッチ (シフトレバー / DMM (Digital Multimeter))

セレクタとして使用する場合

リニアホールIC 位置検知 アプリケーション例

リニアホールICのリニアな検出領域を分割し、位置検出を行うことが可能です。スイッチしたい複数位置の電圧範囲を定め、リニアホールICがその電圧を出力します。MCUがその電圧をモニタすることで、非接触でポジション判定が可能です。
接点不良の懸念がないため、非常に高い耐久性が特長です。

多数 (5ポジションなど) の磁気スイッチを使っている場合

リニアホールICひとつで、同等の機能を持つよう変更できます。

リニアホールIC 回転、スライド量検知

スライド位置検知 (フロートセンサ1)

フロート部分に仕込んだ磁石からの磁束密度変化をリニアホールICが検出し、アナログ電圧を出力します。着磁方向や磁石の大きさを変えることでさまざまな動きに対応可能です。ピーク電圧が高いため、高感度な検出ができる構成です。

リニアホールIC 回転検知 フロートセンサ

回転位置検知 (フロートセンサ2)

液量に応じてフロート部分が上下し、内部に仕込んだ磁石が軸を中心に回転するように配置されています。リニアホールICが磁束密度の変化分をアナログ電圧で出力します。この電圧をMCUがモニタすることでポジション判定が可能となり、前述のスライド位置検知より電圧変化は緩やかになります。

リニアホールIC 回転検知 フロートセンサ2

回転位置検知 (ペダル踏み込み量検知、ボリュームつまみの回転検知)

ペダルの微妙な踏み込み量に応じて出力が変化します。内部に仕込んだ磁石がデフォルトの位置から軸を中心に回転するように配置されています。検出した磁束密度に応じた出力で製品の制御を行います。

ボリュームつまみのような、調整角度が0° ~ 120°程度の回転位置を検出する用途に応用できます。また、出力に直線性を求めないケースでは0° ~ 180°程度の回転位置を検出することが可能です。

リニアホールIC 回転量検知

5. お困りですか? 磁気設計

磁気シミュレーションサービスのご紹介

エイブリックではお客様の機構に合わせて磁石と弊社磁気センサICの最適な組み合わせをご提案する "磁気シミュレーションサービス" を提供しております。 このサービスをご活用いただくことで、お客様が磁石設計を行う際のハードルが下がり、試作前に磁石と磁気センサの動作状況が確認できます。その結果、試作回数、開発期間、開発費用を削減し、より高いコストパフォーマンスが期待できる部品の最適化に貢献いたします。

6. エイブリックのリニアホールICを試してみる

S-5611Aシリーズ プログラマブル
高速応答

データシート

価格と在庫を確認

chip1stop corestaFF ONLINE Digi-Key MOUSER